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日本酒の会 sake nagoya 「酒蔵見学」報告(三宅彦右衛門酒造)の報告

とき:2008年3月1日(土)
酒蔵:三宅彦右衛門酒造(福井県三方郡美浜町早瀬21-7)
宿泊 ジャンボクラブ三方五湖(福井県三方郡美浜町早瀬3号)

 

<1日目>

日本酒の会 sake nagoyaは、例年合宿を実施している。今回は、訪問先との調整で、参加人数を限定する必要が生じ、有志6名のみでの実施となった。今年度の訪問先は、早瀬浦の三宅彦右衛門酒造有限会社さんと七本鎗の冨田酒造有限会社さん。福井県の三方五湖と滋賀県湖北の旅である。

今回の合宿は、訪問先の魅力以外に2つの大きなテーマがある。一つは、硬水で仕込んだ酒と軟水で仕込んだ酒の違いである。日本には一般に軟水が多いが、この違いは、灘五郷と伏見の酒の違いと言い換えてもよい。この違いは醸造過程では、発酵力の違いとなるのだが、今回は改めてこの違いを確認したい。

もう一つは、今回旅する地域には、へしこや鮒ずしという伝統的な発酵食品があることである。「へしこ」とは、つまり魚の糠漬のことで、若狭ではサバやイワシが素材になる。味はともかく猛烈に塩辛い。初めて買ったときサバの塩焼きのつもりで焼いて、ずいぶん苦労したことがある。普通お茶漬けで食べるのであろうが、私は、今は生のまま切って食べている。この方法だとサバの油分のため塩分をあまり感じず、酒のよいあてとなる。もう一方の「鮒ずし」は、鮓の原型といわれるもので、塩蔵しておいたニゴロブナを炊いたコメにつけたもの。発酵による乳酸の匂いと味がする。今回の合宿では、ぜひ地元の発酵食品と合わせて飲んでみたい。ただ、注意したい点がある。日本酒を評するとき、よく「○○とあわせてみたい」という言葉がある。ワインの世界でその言葉が使われる場合には、ボリューム感や香り、酸などから相性を考えた結果として理解できるのだが、日本酒の場合、安易に蔵と同一地域の食材を上げているとしか思えない場合が多い。もし、銘柄も何も聞かず味だけでその食材をあげるならよいが、そうでないならただ地元の食材とあわせて飲んでみたいという意志の表明だけで、何もお酒の特性を表現していないのではないだろうか。

お昼過ぎに晴天の中、名古屋駅をI氏の車で出発。名神高速道路も関ヶ原を過ぎるころから除雪された雪が道端に目立つようになり、福井県に入るあたりでは、みぞれまじりの雪となった。2004年に今回のメンバーのI氏、H氏と大雪の中、早瀬浦の三宅彦右衛門酒造有限会社を訪問した時を思い出す。敦賀ICで高速道路をあとにし、小浜方面に進路を変えた。

早瀬浦、三宅彦右衛門酒造有限会社さんは、三方五湖の海の玄関口、福井県三方郡美浜町早瀬にある。読者にはむしろ三方五湖巡りの遊覧船がでる町といった方がよいかもしれない。海水浴シーズンには、子供たちの歓声も聞けるのだろうが、今日は鉛色の冬空にみぞれ交じりの雨が降っている。ただ寂しいばかりである。しかし、西に三方五湖、東に日本海を望むこの場所は、帆船が物流に使われていた時代には、風待港として栄えた。当時は、「早瀬」ではなく「早瀬浦」と呼ばれ、常神半島の先に住む人が魚を売り、そして酒を買っていくまちでもあった。住民300人に、居酒屋は100軒。今からは想像もつかないほどだったという。三宅彦右衛門酒造有限会社さんは、この地で享保3年、1713年に創業された。

道から1本入ったところにある三宅彦右衛門酒造有限会社さんは、立派な長屋門のあるお屋敷で、いかにも地方の素封家という雰囲気である。

 

蔵元の奥様が出迎えてくれた。
「遠いところをようこそ。今日はよい御天気で」

この時期、晴天が続く名古屋から来ると違和感があるが、今日はずいぶん暖かいという。お忙しい三宅範彦さんを待つ間、地元名産の梅を甘く煮たものとお茶をいただく。

 

早瀬浦の酒は、旨みがあり、しっかりした芯の通った男酒だ。この数年では、定例会では、山廃純米の「御食国の恵み」が取り上げられ、特徴ある酸味と豊潤な旨みが印象に残っている。

 「よくいらっしゃいました」

飾らない三宅さんである。

 

三宅さんは、13年前、東京農大を卒業し、この蔵に帰った。三宅さんは語る。

「東京の大学を出て蔵に帰ったときは、作っているのは普通酒ばかり。これといった特徴もないお酒でした」

大手酒造会社に桶売りしていた時代は終わり、それぞれが自力で生きていかなくてはいけない時代だった。

「農大では2、3月の休みが終わると、蔵の出身者はそれぞれの蔵の酒を持ち寄って飲むのです。みんな大吟醸とか斗瓶とか自慢の酒を持ち寄るのですが、私のところは普通酒しかなく、会で並べてもどうしても減っていかない。悔しくて自分の酒ばかり飲んでましたよ」

この悔しさが、三宅さんの出発点となった。
三宅さんは、卒業後蔵に帰り、伝統の「沢の井」という銘柄をやめた。「早瀬浦」の誕生である。

「銘柄を変えるということは簡単そうなのですが、全銘柄を変えるとなると、納品書から法被・前掛けまで全部変えなければならない。経費がすごくかかりましたよ。親父もよく許してくれました。でも変えたからこそやってこれたと思います。今は、300石ぐらいの生産で、純米が7,8割、出荷の6割は県外という状況です」

実際この数年間に福井県で酒造をやめたメーカーも何軒かあるという。

銘柄を切り替えてから三宅さんの苦労が始まった。大学の先輩には十四代の高木さん、同級にはくどき上手の今井さん、女城主の渡会さん、蓬莱泉の関谷さんなど。比べるなと言われても心の中ではどうしても比べてしまう。

「同級生が賞をとると本当にくやしく、順番で受賞しているのかなと思ったこともありました。今年は、吟醸酒と純米酒の2つの部門で福井県知事賞を受賞。賞の評価の観点は、県、金沢国税局、全国とそれぞれ少しずつ違うような気がします。金沢は、14号でないと賞がとれないのかも…」

今は賞についても余裕をもって語る。

全国に名前が知れたのはダンチューの掲載がきっかけという。

「初めてのダンチューの取材は、養老のある蔵の社長さんが編集部に紹介してくれたことがきっかけでした。その後、会でお会いしたとき、向こうから一緒に頑張っていこうと声をかけていただきました。本当にありがたかった」

気づく気づかぬは別にして、世の中に名前の出るチャンスはどこの蔵にも訪れるという。あとは、それをどう生かしていくかである。

「ちょうど世間が日本酒に関心を持ちだした時期で、実力がなくてもうまくアピールすればマスコミが飛びついてくれる時代でした」謙虚な言葉である。

「以前お邪魔した時は、蔵人を農村からの出稼ぎから自社社員に切り替えたいと言ってみえましたが、今はいかがですか」

「能登からの杜氏と東京から来てくれた人、地元の農家の人、自分の4人を中心に作っています。あとは家族です。楽しくチームワークで作っていくことが一番です」

そんな蔵の雰囲気がお酒にも出るという。

また誰かが聞く。

「この蔵の特色はどんな所にあるのでしょうか」

「私の先祖は、苦労して海に近いが真水の湧く場所を探したと思います。井戸の水は、洗いには水温が少し高いので、温度を下げていますが、あとは一切加工なしです。ミネラルが多く、酒造に適しています。酒は全量槽で絞り、濾過ではスミは全くかけず、ミクロフィルターで荒く濾すだけです」

ミネラルの多い水で仕込むと、酵母がミネラル分を栄養とし、湧くように発酵する。また、できた酒は、芯の通ったくっきりした輪郭をもつものができやすいようだ。いただくと確かにミネラルが感じられる。お酒になっても水の持つミネラルがわかるほどだ。私見だが、ミネラルの感じられるお酒は海の香りのある海産物に合うように思う。

早瀬浦というと種類が多い印象がある。この理由を聞くと

「愛知県ではサケハウスさんにお世話になっていますが、取引のある酒販店は多くありません。ただ、お客様には1年を通していろいろな早瀬浦を楽しんでほしいのです。時期時期で楽しんでもらえるようたくさんの種類を揃えています。その上で、どのアイテムも早瀬浦らしさがあり、それぞれの違いがはっきりわかるようにしたいです」

商品の陳列してある棚を拝見すると半分ぐらいに札が倒れ、売り切れとなっている。買いたかった「御食国の恵み」も残念ながら売り切れとなっていた。

 

説明のあと、「しぼりたて」「山廃本醸造」「青いラベルの吟醸」を試飲させていただいた。搾りたてはさすがに硬いが、いずれもしっかりしたうまみ味のある酒で、やはりすっきりと一本芯が通っている。

三宅さんは、正直なお酒を造り、飲んだ時にこの蔵の音とか造り手の顔が浮かんでくるようなお酒を造りたいと語る。これからの活躍を期待したい。なお、今回は、まだ皆造を迎えておらず、蔵人が作業中ということで蔵に入ることはできなかった。

「他の季節ならいくらでも案内できるのですが…」

酒造りは真剣勝負である。拝見できないことは残念だが、また次の機会としたい。

まだ、酒造りの作業の続く中、貴重な時間をとっていただいた三宅さんに改めて感謝申し上げたい。

 

その夜は、三宅さんにご紹介いただいたジャンボクラブ三方五湖に泊まった。各部屋からは久々子湖が窓いっぱいに広がり、ウミネコが数羽舞い旅情を誘う。夕暮れを迎え一面の湖面の向こうには山並みと街の灯りが遠くに見える。

夕食は、カニづくしである。

刺身、焼きガニ、ゆでガニ、カニすき、そしてお目当てのヘシコ。早瀬浦の特選大吟醸や本醸造をいただく。海のものの中でも強い味の素材の多い今日の料理には、早瀬浦のお酒は本当によく合う。たらふくカニとお酒をお値打ちにいただき、1日目を終えた。

(報告:T)

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